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NEW INCUBATION 8 Ryusuke Ito & Yumi Nakata Exhibition “Diorama and Panorama: Diverting Realities”
- Genre
- Art
- Category
- Exhibition
- Date and time
- Fri, Jun 10, 2016 - Mon, Jul 18, 2016
- place
- Kyoto Art Center ギャラリー北・南
- Fees & Others
- 無料
- Business Segments
- 主催事業
”書き割り的世界”の見方
第8回となる今回のNEW INCUBATIONは「ジオラマ」と「パノラマ」をキーワードとして、ベテラン作家として伊藤隆介、若手作家に中田有美を招きます。ジオラマとパノラマは、つくりものの背景と立体的な模型を組み合わせて本物のように見える錯覚を生み出す視覚装置として発明されました。本展では、「本物らしさ」から視点を転換させて(diverting realities)、それらの機構が生み出す現実感のズレや揺らぎに焦点を当てます。『ジオラマとパノラマ ――Diverting Realities』では、こうしたテーマをもとにそれぞれの作家が取り組んでいる作品シリーズ「Realistic Virtuality」と「背景の背景」から展示が構成されます。
伊藤隆介の「Realistic Virtuality(仮想的な現実性)」では、模型や玩具、お菓子箱などがブリコラージュされたジオラマのような造形物と、それに対して接近・後退を繰り返すCCDカメラによるライブ中継映像が併置されます。映画セットさながらの精巧な書き割りや建て込みのミニチュア・セットはレンズを介すとスケール感を喪失して驚くほど本物らしく見え、「CG以上のリアリティ」と「実写特有の嘘っぽさ」の両義性を持った不思議な映像世界が生み出されます。しかし、カメラに映らない部分には骨組みやボルトなどが剥き出しのまま残され、作り物であることが露わにされています。特撮ものやアニメのような映像を、その「タネ明かし」であるジオラマ模型とともに展示することで、虚実のあわいをユーモラスに提示します。
近年の伊藤は、福島第一原発や航空機事故等、時事的なトピックや、サメや恐竜等が登場する70年代のパニック映画をテーマにした作品を発表していますが、京都芸術センターでの展示には、撮影機構とその映像での見え方のギャップが際立つ観念的なイメージの作品が出品されます。キャラクターや車のおもちゃ等が回転しながら重力の渦に吸い込まれていく光景を映し出す《ブラックホール》や、炭鉱のような洞穴のなかをカメラがえぐり込んでいく《Field Watcher》(京都では初展示)など、鮮烈な映像が私たちの記憶のなかの様々なイメージを喚起させるような作品を出展します。
中田有美の「背景の背景」は、デジタルコラージュ写真と絵画作品がパノラマ状に壁全体にはり巡らされるインスタレーションです。写真と絵画のいずれにおいても前景と後景の区別がないオールオーヴァーな画面構成がなされており、互いに合わせ鏡あるいは画中画のように関係づけられて空間中に配置されます。絵画作品のなかでは、粗いデジタル処理の特徴が残された写真を背景としてその上に何らかのモチーフが描かれていますが、色彩と筆致のせめぎあいによって絵画の主題は背景と溶け合い、ひとつの抽象的なイメージへと再構築されています。白々しい書き割りのデジタル図像との対比によって絵具のモノとしての存在感が強調され、物質性そのものが主要なモチーフとして浮かび上がってくるかのようです。
中田はファッション分野のテキスタイルを学んだ後、絵画に転向して以来、身に着けているもので素顔が見えなくなってしまう自画像や、「私」という文字や記号を絵画的にメタモルフォーゼさせる作品を描いていました。2014年以降は観察して見たままを描くというリアリズムの基本に立ち返ることで、主題を印象付け、状況や性格を表す「背景」によって自己を表現することを試みるようになります。今回出展される「背景の背景」は、付属品や2次的なものによって描かれる「虚像としての自画像」の系譜に位置づけられます。
伊藤と中田は、ジオラマとパノラマというイリュージョンの形式を利用しながら複合的なメディアの作品を作り出します。二人の作品は、遠近感やスケール感の喪失をもたらすだけでなく、異なる次元の異なる現実に対する視差をも顕在化させることで、見る者のパースペクティブを攪乱させます。映像や写真、絵画、漫画など様々な視覚メディアに慣れ親しむことで、何を本物らしいと感じられるのかは変化していきますが、両作家は、現在の飽和した視覚文化におけるメディアの決まり事やクリシェなどを引用しながらも、メタ的な視点を導入することで、イメージを多層化させていくことを試みているように思われます。現実と虚構の世界を往還するなかで立ち上がってくる現代的なリアリティを表現する両作家の作品をどうぞご覧ください。
- 日時
-
2016年6月10日 (金) – 2016年7月18日 (月・祝)
※7月14日-16日は祇園祭のため17:00閉廊
10:00~20:00
会期中無休 - 会場
- 京都芸術センター ギャラリー北・南
- 出展作家
- 伊藤隆介、中田有美
- 関連イベント:アーティスト・トーク
- 2人の出展作家 伊藤隆介と中田有美がそれぞれの作品についてお話しします。
日時:6月10日(金)18:00~19:00
会場:ギャラリー北・南
※入場無料・事前予約不要
※ギャラリー南から開始します
伊藤隆介 / Ryusuke Ito
1963年札幌市生まれ。シカゴ美術館付属大学大学院修士課程修了(MFA)。1980 年代より活動する実験映画およびファウンド・フッテージの作家であり、漫画・美術・視覚メディアを縦横に切る批評家(村雨ケンジ名義)でもあり、近年の映像インスタレーション「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」シリーズでは美術作家として国内外で高い評価を受けている。「Realistic Virtuality」は、我々を取り巻くメディア社会について、視覚的・詩的批評を試みるビデオ・インスタレーション作品の連作。自作のミニチュア・セットと、それをCCD小型カメラで撮影したライブ映像を同時に展示することにより、「現実」と「メディア(マス・メディア)が運んでくる現実」の “段差”を表現する。主な個展として、『伊藤隆介ワンマンショー;ALL THINGS CONSIDERED』(札幌宮の森美術館、2014)、『天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」』(三菱地所アルティアム、福岡市、2016)。グループ展には、『第4回 恵比寿映像祭:映像のフィジカル』(東京都写真美術館、2012)、『Re:Quest-1970年代以降の日本現代美術展』(ソウル大学校美術館、2013)などがある。
中田有美 / Yumi Nakata
1984年奈良県生まれ。2016年京都市立芸術大学美術研究科で博士号取得(美術)。自画像の仕組みを描き手の側面から分析した博士論文「不可能な自画像――不可視のわたしと世界の不可視を見るための方法」で梅原猛賞を受賞。自画像、風景画、静物画などの古典形式絵画に通底するルールを一部逆転解釈し、不均衡な油彩画を描く。また巨大なインクジェットプリントの上に油彩画を置き、両者をわけへだてなく提示する「背景の背景」シリーズに2014年から取り組んでいる。2016年4月より京都の東山にあるHAPSスタジオで制作中。個展として『不可能な自画像』(京都市立芸術大学小ギャラリー、2016)、主なグループ展には、『The Hundred Steps』(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、2015)、『egØ-「主体」を問い直す-』(punto、京都市、2014)、京芸Transmit Program #3 『Metis-戦う美術』(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、2012)など。
主催
京都芸術センター
問合せ先
京都芸術センター
Tel: 075-213-1000
E-mail: info@kac.or.jp
協力
児玉画廊、東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)